定期的に拝読している投資ブログの中に、『FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記』という素晴らしいブログがあります。最近、その九条さんの記事や、X(旧Twitter)のタイムラインを眺めている中で、ある言葉が頻繁に目に飛び込んでくるようになりました。
「資産額、過去最高を更新しました!」 「○○の銘柄が急騰して含み益がすごいことに!」
株式市場が好調なとき、こうした歓喜の声はSNSに溢れかえります。急に大盤振る舞いをして豪華な食事や旅行の写真をアップしたり、高級家電を買い揃えたりと、どこか熱狂的な空気が漂い始めます。しかし、投資歴を重ねてくると、こうした「みんなが儲かっている」というお祭り騒ぎの状況に、ふと冷や水を浴びせられるような感覚を覚えることはないでしょうか。
今回は、現在の急変動する相場環境を振り返りながら、「リスクの過熱感の測り方」「株式市場で周りと同じように行動してはいけない理由」について深く考えてみたいと思います。
少しでも参考になれば幸いです。
1. 炭鉱のカナリア:リスク過熱感はどこに表れるか
「炭鉱のカナリア」という言葉をご存知でしょうか。かつて炭鉱労働者が、有毒ガスの発生をいち早く察知するためにカナリアを連れて坑道に入ったことから、「何らかの危険が迫っていることを知らせる前兆や警告」の象徴として使われる言葉です。
私にとって、Xでの「資産額が大きく増えた」という熱狂的な発言の増加は、まさにこの炭鉱のカナリアでした。
リスクの過熱感を測る際、私は意図的に個人投資家の動向を観察するようにしています。Xのツイート、YouTubeの投資系動画のコメント欄、Yahoo!ファイナンスの掲示板などを見て回ります。そこで「全力で投資をした」「借金してでも買うべき」といった極端な言葉や、過度な含み益の自慢が増えてきたら要注意です。意識して読んでいると、感覚的に「今の相場、ちょっと楽観視されすぎていて危ないのではないか」という不安がよぎるようになります。
少し前の話になりますが、「アメリカの紙幣の価値が下がっているから、代替資産としてゴールドや暗号資産を買え」という物語が市場を席巻しました。僕自身も定期的に積み立てているビットコインがあり、以前は+20%ほどの損益になっていたのですが、最近ふと確認するといつの間にか+8%にまで縮小していました。
急激な変動を見て「暗号通貨のボラティリティ(価格変動)とはこういうものだ」と改めて実感しました。もともと暗号資産で一攫千金を狙おうとは全く思っていなかったので心は凪のままですが、もしあの「代替資産として買え!」という過熱感のピークで飛びついてしまっていたら、今頃大きな高値掴みをして後悔していた人も少なくないはずです。
2. 決算シーズンと「感情のジェットコースター」
投資家にとって、決算シーズンは非常に疲れる時期です。自分の持ち株の決算が良く、株価が大幅に上昇すれば天にも昇る気持ちになり、逆に業績が悪く急落すれば深い自己嫌悪に陥ります。自覚がなくても、感情のジェットコースターに振り回され、精神的な疲労が蓄積している投資家は多いはずです。
株式市場で絶対にやってはいけないことの一つは、「他の人と同調して、感情のままに行動すること」です。
決算シーズンにはこの罠が至る所に潜んでいます。自分の保有銘柄の決算が悪く株価が下がる一方で、SNSでは他の投資家が「○○の決算最高!爆益!」と喜んでいるのを目にします。すると、隣の芝生が青く見え、「自分もあの良い銘柄に乗り換えよう」「何かすぐに儲かる銘柄はないか」と、焦りから短期的な行動に走ってしまいがちです。
結果的に、市場全体のリスクが高まっている(過熱している)状況で高値掴みをしてしまい、その後の調整下落で大きな含み損を抱えてしまう。これが、感情に支配された投資家の典型的な負けパターンです。
3. 大衆の逆をゆく投資哲学と「自省」の精神
相場が急転換したときこそ、偉大な投資家や先人たちの言葉が胸に響きます。投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットの有名な言葉があります。
「他人が貪欲なときに恐れ、他人が恐れているときに貪欲であれ」
他人の資産が増え、誰もが「もっと儲かる」と貪欲になっている時機に、同調して投資のアクセルを踏み込むのは極めてリスクが高い行為です。決算シーズンなどで市場が浮き足立っている時であれば、なおさらです。周りの熱狂に飲み込まれず、少し引いた目線で市場を冷静に見渡す能力は、個人投資家が生き残るための必須スキルと言えます。
しかし、周りを冷静に見るだけでは片手落ちです。それ以上に重要なのは、「自分自身を冷静に見つめ直す能力」**です。
古代中国の兵法書『孫子』には、次のような言葉があります。
「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず(あやうからず)」
相手(市場環境や他の投資家の心理)を正しく理解し、同時に自分自身(資金力、投資目的、現在の感情状態)を深く理解していれば、何度戦っても危険な目に遭うことはない、という意味です。
投資も全く同じです。今の市場が上がっているか下がっているかという「外側の世界」の分析だけでなく、自分自身の「内側の世界」を自省する必要があります。「今、自分が買おうとしているのは、ただ短期的な値上がりに便乗して儲けたいだけではないか?」「目先の配当金が欲しいばかりに、権利確定直前の高値で不必要なリスクを取っていないか?」。
ローマ皇帝マルクス・アウレリウスが『自省録』で説いたように、外的要因に振り回されず、自らの内なる理性と向き合う姿勢が投資には求められます。
4. 実践:高配当株投資における規律と、暴落への向き合い方
私自身の実体験でお話しします。私は高配当株投資をメインに行っていますが、9月の権利確定に向けて「伊藤忠エネクス」や「東京センチュリー」などを狙っていました。しかし、権利確定日が近づくにつれて株価がスルスルと上昇してしまったため、「ここで無理に飛び乗って投資をする必要はない」と判断し、購入を控えました。
配当金欲しさに高値で掴んでしまえば、権利落ち後の下落で配当以上の含み損を抱えるリスクが高まります。ここでも「己を知る(自分の投資ルールを守る)」ことが功を奏した形です。
そして現在、来週の月曜日はアメリカの雇用統計の急激な悪化を受けて、日経平均の先物も久しぶりに大幅なマイナスを記録しています。トランプ前大統領が「雇用統計の悪化は捏造だ」と主張し、関連する局長を解雇するといった政治的なノイズも入り混じり、市場は混沌としています。
しかし、だからといってパニックになって手放したり、逆に「バーゲンセールだ!」と無計画に飛びついたりする必要もありません。これまでは過熱感を伴って上がり続けてきた相場です。今回の急落も、一旦の利益確定売り(ガス抜き)の側面が大きいと僕は見ています。一時的な急落はあるかもしれませんが、これが直ちに経済を崩壊させるような致命的な大暴落の引き金になるとは考えていません。
5. 情報の「ジャンクフード」を避け、恐怖をチャンスに変える
相場が下がると、必ずと言っていいほど不安を煽るニュースやYouTube動画が溢れ返ります。「ブラックマンデーの再来か!?」「今すぐ株を売れ!」といった過激なサムネイルが並ぶでしょう。
なぜそうした情報が増えるのか。それは、人間の防衛本能として「マイナスな情報、恐怖を感じる情報」のほうが圧倒的に目を引きやすく、再生数やクリック数を稼げるからです。そうした短期的に不安の感情を掻き立てる情報は、一時的な満足感や刺激を与えるだけの「情報のジャンクフード」に過ぎません。食べすぎれば投資の判断能力という健康を損ないます。
大切なのは、そうしたノイズに惑わされず、自分がどう立ち回るかです。周りと同じように「恐怖」という感情に支配されて投げ売りをしてしまえば、株式市場というゼロサムゲーム(あるいはプラスサムゲーム)において、最も不利な状況に自らを追い込むことになります。
株式市場が恐怖で売り込まれている時こそ、実は優良銘柄を適正な価格で仕込めるチャンスが静かに転がっています。恐怖に怯えるのではなく、深呼吸をして自省し、自らの投資ルールに則って淡々とチャンスを探る。
熱狂のピークで慎重になり、恐怖のどん底で冷静に価値を見極める。これからもこの基本を胸に刻み、市場という荒波を乗り越えていきたいと思います。


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