相場が好調な時も、下落して含み損を抱える時も、常に画面の向こう側の数字と、そして自分自身の感情と向き合っています。
最近、日々の生活やこれまでの投資歴を振り返る中で、ある一つの強烈な法則に気がつきました。それは、「最初に『不快だ』『居心地が悪い』と感じる状況の中で起こした行動こそが、投資においても人生においても、最大の長期的リターンをもたらす」ということです。
人間は本能的に「現状維持」を好む生き物です。行動経済学ではこれを「現状維持バイアス」と呼びます。新しいことや、少しでもストレスのかかることは無意識に避けてしまうのが普通です。しかし、その「居心地の悪さ」を引き受けることこそが、資産を増やし、自分自身の価値(人的資本)を高めるための「入場料」なのではないかと思うのです。
今回は、投資はもちろん、日々の習慣や仕事、趣味に至るまで、この「居心地の悪さの先にあるリターン」について、僕の実体験を交えながら深く掘り下げてみたいと思います。
少しでも参考になれば幸いです。
1. 投資における「恐怖」は利益の源泉である
まずは、株式投資についてです。
過去を振り返ってみて、あなたのポートフォリオの中で現在大きな含み益をもたらしている銘柄は、どのようなタイミングで買ったものでしょうか? おそらく、鼻歌交じりで楽観的に買えた時ではないはずです。
例えば、かつてのトランプ関税ショックの時。相場全体が悲観論に包まれ、「これから世界経済はどうなるんだ」「もっと下がるかもしれない」という恐怖が市場を支配していました。しかし、その圧倒的な居心地の悪さの中で勇気を出して投資した三井物産は、その後しっかりと株価を上げ、今の私に多大な恩恵をもたらしてくれています。また、最近の商船三井の株価上昇も同様です。過去を振り返れば、相場全体がパニックになり、自分のポートフォリオが真っ赤に染まっているような精神的に最もキツいタイミングで拾った銘柄ほど、今になって莫大な含み益と、分厚い配当金の壁を作ってくれています。
投資の世界では、「皆が恐怖を感じている時に買い、皆が貪欲になっている時に売れ」という格言があります。 まさにその通りで、「持ち株がマイナスになっている」「相場全体が不気味だ」という不快感の中で、あえて自分のルールに従って買い向かう。この「居心地の悪い逆張り」ができるかどうか。短期的な恐怖という痛みを引き受けた者だけが、長期的な果実を味わうことができるのです。
2. 日々の習慣:「二度寝の誘惑」に打ち勝つ自己投資
この法則は、チャートを閉じている時の毎日の生活習慣にも全く同じことが言えます。
例えば、朝のランニングやジムでのトレーニング。正直なところ、朝起きてすぐに「よっしゃ!今すぐ限界まで追い込みたい!」なんて気分になることは滅多にありません。スクワットなんて重たいものを抱えて限界までトレーニングなんてやりたくはなく本音を言えば、暖かいベッドでゴロゴロして二度寝を決め込んだり、スマホでだらだらとYouTubeを眺めたりしていたいものです。これが人間のデフォルトです。
しかし、その「行きたくない」「面倒くさい」という強烈な現状維持の引力を振り払ってウェアに着替え、ジムへ行き、汗を流すとどうでしょうか。 体は完全に目覚め、頭の回転は驚くほど速くなります。その後の仕事の集中力や、1日を極めて有意義に過ごせているという自己肯定感は、ベッドで過ごした1時間では決して得られないものです。
心理学には「満足の遅延」という言葉があります。目先の小さな快楽(二度寝)を我慢して、将来の大きな成果(健康、活力、引き締まった体)を選択する能力です。 この「朝の居心地の悪さ」を乗り越えた1日の積み上げが、1ヶ月、1年、10年と続いた時、人間の能力や健康状態には、まさに投資の複利計算のような圧倒的な差が生まれます。日々の地道な積み重ねが、将来の自分を助ける最強の自己投資になるのです。
3. 仕事:「こんな重たい仕事、嫌だな」の先にある人的資本の拡大
仕事においても、この法則は容赦なく適用されます。 新しいシステムの導入、未経験の複雑な業務、あるいは責任の重い大きなプロジェクトを任された時。最初は誰だって「大変そうだな」「失敗して評価が下がったらどうしよう」と尻込みしてしまいます。できれば、今の慣れ親しんだ業務だけを淡々とこなしていたいと思うのが普通です。
実際に挑戦してみれば、当然ながら壁にぶつかります。わからないことだらけで頭を抱え、時には周囲に迷惑をかけて失敗し、冷や汗をかくような思い(強烈な居心地の悪さ)を経験することになります。 しかし、そのプレッシャーの中で試行錯誤し、学び、なんとかやり遂げた後にはどうでしょうか。「あの時、逃げずに挑戦しておいて本当に良かった」と確かな成長を実感できるはずです。
投資家界隈でも有名な『ブラック・スワン』の著者、ナシム・ニコラス・タレブは、ストレスや負荷、失敗に晒されることで逆にシステムが強固になる性質を「反脆弱性(Antifragility)」と呼びました。
仕事での失敗や重圧というストレスは、一時的には苦痛ですが、それを乗り越える過程で私たちのスキルは拡張され、希少価値の高い人材へと成長していきます。
居心地の良い場所(コンフォートゾーン)に留まっていては、給料もスキルも上がりません。不快な領域(ストレッチゾーン)に踏み込むことこそが、最大の資産である「自分自身の稼ぐ力」を最大化させるのです。
4. 趣味や経験:旅行前の「謎の後悔」と帰国後の「一生の財産」
最後に、趣味や人生の経験という観点からも考えてみます。 高配当株投資家は、得てして「節約家」であり「合理主義者」になりがちです。だからこそ、大きなお金を使う経験において、特有の葛藤を抱えることがあります。
例えば、海外旅行です。最初は「あそこの国に行ってみたい!」とテンション高く航空券やホテルを選ぶのですが、いざクレジットカードで数十万円の決済をする段階になると、「このお金を高配当株に回せば、毎年〇万円の配当金が一生入ってくるのに…」と急に冷静になり、予約ボタンを押す手が震えたりします。 さらに出発日が近づいてくると、パッキングの面倒くささや、見知らぬ土地へ行く不安、言葉の壁への懸念から、「やっぱり家でのんびりしていた方が良かったかな」「行くのが怖いな」なんて思ってしまうことすらあります。
しかし、不思議なもので、その「お金を失う痛み」と「未知への不安」という二重の不快感を乗り越えて飛行機に乗り、実際に現地で新しい文化に触れ、美味しいものを食べ、トラブルすらも笑い話に変えて帰ってくると、結論はいつも同じです。
「本当に行ってよかった」「お金には代えられない最高の経験になった」
投資の世界では複利が大切ですが、人生における「経験」もまた、早く経験すればするほど、その後の人生で何度も思い出して幸せな気持ちになれるという「記憶の配当」を生み出し続けます。旅行の前に感じるあの居心地の悪さは、一生モノの財産を得るための単なる手続きに過ぎないのです。
そう考えるとサウナも似たようなものなのかもしれません。
サウナも最初はこんな暑い所嫌だと思いますが、そのあとに水風呂という不快感がありますが、それでも入った後はとてもリフレッシュされています。
まとめ:不快感は、成長とリターンの「入場料」である
投資、習慣、仕事、そして人生の経験。 分野は違えど、すべてにおいて共通している真理があります。それは、「最初の一歩を踏み出す時の心理的ハードル(居心地の悪さ・不快感)は、後に得られる巨大なリターンへの入場料である」ということです。
高配当株投資は、今日明日の利益を追うものではなく、数年、数十年先の未来を豊かにするための長期戦です。短期的な痛みに耐えて長期的な果実を得るという「投資家の思考回路」を持っています。
だからこそ、相場だけでなく日々の生活の中でも「ちょっと嫌だな」「居心地が悪いな」「怖いな」と思う選択肢が目の前に現れたら、あえてそちらにベットする。
その小さな「逆張り」の積み重ねが、あなた自身の能力を高め、人生の経験を豊かにし、最終的には金融資産のポートフォリオと人生そのものを、想像以上に力強く、強固なものにしてくれるはずです。

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